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盗まれた幸福

「な・・・
 なんの・・・何の
 よ・・ようだっ!」

虐められていた自分の姿を見られた
恥かしさなのか
義春は幸絵に怒鳴り返しました。

「あ・・・
 あの・・・
 つい懐かしくて・・・
 ごめんなさい・・・
 驚かせて・・・。」

「な・・
 なな・・何が・・・
 何が・・
 なな・・懐かしくて・・・だ・・・。
 ち・・ちっとも・・
 れ・・れん・・連絡よこさなかった
 く・・癖に・・・!」

「ごめんなさい、
 私も、逢いたかったんだよ・・・。」

”だってお父さんが・・・”

思わず逢ってはならないといった
幸雄の顔が浮かんだのですが
幸絵は口を噤(つぐ)みました。

あれほど寂しかった
別れだったはずなのに
いつの間にか幸絵自身も心の何処かに
忘れてきていてしまったからです。

”私も義春兄ちゃんやおばさんのこと
 忘れてたんだもん・・・。”

幸絵は父のせいにする
ずるいと感じたのでした。

「は・・
 はんっ・・・
 お・・お前らのことなんか
 し・・・信用できるかよっ!?」

「えっ・・・
 ど・・どうして・・・
 何でそんなこと言うの・・・?」

義春が怒っているのは
虐められている時にただ見ていただけの
幸絵の行為を咎めているものと思っていたのですが
義春の表情にはそれとは違う
憎しみのようなものを幸絵は感じました。

「い・・今更・・
 と・・惚けんな・・ど・・どろぼう一家が・・・!」

「え・・?
 ど・・泥棒っ?」

幸絵には何のことかわかりません。

「泥棒って・・どういう意味なの・・・
 義春兄ちゃんっ!?」

幸絵が詰め寄ると
義春はそのどもる口調で
ゆっくりと語り始めました。

今、世界的にも有名な中村工業の
成功のきっかけとなったのは
あのSMMDであることは
電気工業界では知らないものはいない事実です。

そのSMMDの開発は
義春の父である進が行ったもので
幸絵の父である幸雄は特許申請を行っただけだと
義春は言うのです。

「でも・・・
 なんで・・・
 なんでそれが真実だってわかるの・・?」

あの優しく真面目な幸雄が
そんなことをしたとは俄かに信じられない幸絵でした。

しかし
義春に問い掛けながらも
幸絵はそれが真実であろうことを
それとなく
感じ取っていました。

なぜならば
元々、義春は嘘をつかない人です。
というより嘘をつけないのです。

唯でさえ話が苦手な義春は
嘘をつこうとすると
更にそ吃音の症状は酷くなり 
殆ど話せなくなってしまうのです。

それでも問い質してしまったのは
父の幸雄から聞いていた全く逆の話しを
信じていたからです。

”共同開発と言っても
 主設計は幸雄、
 義春の父の進はサポート、
 殆ど雑用のみ”

幼いながらも
SMMDの恩恵を感じていた幸絵です。
いつしかそれを享受するのが
自分達だけであることを疑問に感じ、
幸雄にそれを聞いたのです。

葬儀からの1年間、
中村工業創業時のパートナーとして
それ相応の謝礼と義理は果たしてきたと
父は語り、
幸絵もそれを信じていました。

「しょ・・証拠は・・・
 証拠はあ・・あったさ・・・。」

「え・・あった・・・?」

義春が語るには、
進の遺品である数十冊の大学ノートに
びっしりと書かれた研究結果が
残されていたとのことでした。

あらゆる試行錯誤が
繰り返された記録と共に
行き詰った時に書いたのでしょう
お金が入った時に
智子と義春にしてあげたいことを
書き連ねていたそうです。

たどたどしくはありましたが
その内容に淀みは無く
義春の口調は間違いなく
それが真実であることを伝えていました。

「でも・・・
 何で・・今まで・・・
 お・・おばさんも知ってたの?
 そのこと・・・。」

「し・・・
 知って・・・知ってたさ・・・・、
 で・・・でも・・・
 か・・・母ちゃ・・あ・
 お・・お袋・・・
 それ・・・ぜ・・全部
 や・・焼いちゃって・・・・。」

「え・・・?
 な・・何で・・・?」

開発の唯一の
証拠とも言える研究ノートを
進の妻である智子自身が燃やしてしまったことを聞き、
幸絵は驚きを隠せませんでした。

義春も当然、
智子に問い質したそうです。

けれど智子は
駆け落ちしてきた自分達を
助けてくれた幸雄への恩義を優先したのです。

「第一、工場の設備がなければ
 研究はできなかったでしょ・・・?」

智子は納得がいかない表情の義春に
微笑みながら語ったそうです。

”・・そうだった・・・
 おばさん・・・そういう人だ・・・。”

幸絵は智子の顔を思い浮かべながら
義春の話を聞き続けました。

神崎工業でのバイト時代、
幸雄が独立して中村工業を興した時も
食べるお米に苦労した時、
幸雄ら夫婦が親身になって
助けてくれたことを
義春は何度も聞かされたそうです。

「だ・・・
 だか・・・
 だから・・・、
 か・・・母ちゃん・・・
 お・・お袋は・・・
 も・・燃やしたんだっ!
 お・・お前の・・お前の
 お・・おや・・親父がし・・
 したことを・・・!」

悔しそうな義春の表情に
今の二人の暮らしぶりが伺えました。

”お・・・お父さん・・・
 な・・・何てことを・・・・。”

「お・・・
 お前・・・と・・
 お・・お前たち・・・お・・親子の・・・
 し・・・幸せは・・・
 お・・俺たち・・・
 俺たちのものだった・・
 だったんだ・・!」

興奮して語る義春の
目元に涙が溢れていました。
幸絵もその涙につられ涙を落としました。

「ごめんね・・・
 ごめんね、
 お兄ちゃん・・・。」

もう
疑う余地はありませんでした。
幸絵は智子と義春の気持ちを思い
深い悲しみに襲われました。

幸絵には証拠が燃やされて良かった、
自分達の生活が危ぶまれることはないんだ、
そのような発想は浮かびません。

唯、父、幸雄が行った智子らへの背信行為と
それを享受して幸せな生活を送っていた自分に
深い罪悪感を感じていたのです。

「わ・・・私・・・
 何をすればいい・・?
 何でもするよ・・・。」

幸絵の口から
その言葉が漏れました。
それは純粋に
智子と義春への謝罪の心の現れだったのです。

暫く沈黙が続きました。

重い空気の中、
義春が発した言葉は
幸絵を戦慄させるものでした。

「ぬ・・・
 ぬ・・脱げよっ!」

「え・・・?」

思いがけない言葉に
幸絵は驚愕を隠せません。

「お・・・
 俺の・・・
 俺のち○ぽこ・・・
 の・・のの・・
 覗いて・・たろっ・!?」

「ご・・
 ごめんなさい・・・。
 あの・・
 そんなつもりじゃ
 なかったんだよ・・・。」

「う・・うるせーっ!
 な・・何でも・・・
 何でも・・するって・・
 い・・いった・・いったじゃんかっ!?」

「そ・・そうだけど・・・。」

幸絵は義春の言葉に返す
台詞がありません。

けれど、
もう幸絵も思春期を迎えた少女です。

少しずつ大人の女性の身体に
変わりつつある自分。

それに戸惑いつつも
大切な人にだけに捧げる宝物に似た
感覚をその制服の下に持ち合わせているのです。

大人の発毛と共に
母親ともお風呂に入ることすら
無くなっています。

「や・・やっぱ・・
 やっぱり・・・
 お・・お前ら・・
 お・・おやこ・・・
 親子は・・・う・・嘘ばっかり・・・だ。」

義春はそういうと
幸絵に背を向け
泥にまみれた
自分のズボンを拾いあげました。

「ま・・・
 待って・・・
 お兄ちゃん・・・
 わ・・私・・脱ぐ・・・
 脱ぎます・・・。」
 
幸絵は義春の前で一枚一枚
制服を脱ぎ捨てていきました。

yukie013


「そ・・それもだっ・・・!」

最後の一枚に躊躇している
幸絵の握り締めた
か細い指を
義春の言葉が急かします。

「う・・うん、
 わ・・判ってる・・・ぬ・・脱ぎます。」

義春たちの盗まれた幸福を
少しでも返せるのなら・・
幸絵はその思いに言葉を震わせながら
下着を脱ぎ去ったのでした。

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