2015/09/21 義春の幸せ 義春にとってのこの10年間いや父を亡くした日から思えば更なる年月を歯を軋ませ悔しさに甘んじてきたそれでも彼の慕う母が逢いに来てくれていた頃はまだ良かった世間に顔向けの出来ぬ息子に変わらぬ笑顔で接してくれた母日に日にやつれていく姿に心を痛めながらもこの母のために更生を誓っていたしかしその母の突然の訃報がもたされたのは収監されて僅か3年を過ぎたばかりの冬のことだった”か・・かあちゃあァァァんっ! あぐおぉおぉぉっ””薄い布団に潜り込み”ゆ・・・ 幸絵と あの親父のせいだ!”枕に慙愧と悔恨そして溢れる怨嗟を叫び続けたそう母の無念を幸絵らの所為にしなければ彼は精神を保つことが出来なかったそして5年が過ぎた頃、恨むことにも疲れ果て誰も彼を訪ねてこない寂しさにも慣れたその頃だった突然幸絵の面会希望を聞いたのだった”なっ・・ 何を今更っ・・・”社会復帰まであと1年やっと忘れようとしていた辛い記憶を再び呼び戻されたことに彼は憤り当然のごとく面会を拒絶したのだ”も・・・もう思い出したくないっ・・!”しかしそれから一年の間幸絵は諦めることなく毎週のように訪れ続けてきた”お・・俺に そ・・・ そんなに逢いたいのか・・・?””幸絵にとっても 思い出したくはない過去のはずだ・・・”幸絵の気持ちを測りかねたそしてちょうどひと月前だったまたしても義春のもとに意表を衝く出来ごとが持たされたそれは彼女の印が捺された婚姻届だった女性に好意を持てば距離を置かれ近寄れば吃音症が酷くなり更に距離を置かれたその鬱憤のために魔が差し今の自分がある学歴もなく人を殺めた自分がこれから社会に戻る当然幸せな結婚生活など望めるはずもない暗い闇が社会に出ても続くことを義春は覚悟していた故に俄に信じがたいことだったしかし彼を驚かせたのはそれだけではなかった「お疲れ様・・・よしにいちゃん」想像していた以上に彼女は魅力的な女性となっていたそれも義春が課した露出的な姿に身を震わせ母に負けぬ優しげな笑顔を差し向けて嬉しかった健気なその姿に母を思い浮かべ申し訳なさすら感じ始めていたその時彼は婚姻届を受け取った夜から抱き始めた密かな希みを更に深めていた「か・・母ちゃん・・ お・・俺・・ ゆ・・幸絵とだったら や・・やり直せるかも知れない・・・。」疑うことなくその時彼は幸絵への愛情を取り戻し昔なくした父母とのささやかな幸せを築き上げていくことを夢見ていた
2015/09/06 何処へ行くの・・・? 半年前のあの日久々の再会に涙を浮かべた幸絵に尻目もくれずすたすたと門に向かい歩みすぎていく義春「・・・え・・?」感動の再会とまで言わなくとも彼とやっと言葉を交わせることを幸絵は思っていたその為にまだ寒いこの季節にそぐわぬ姿で迎えに来たのだ「あっ・・・あの、 よ・・よしにいちゃん・・・?」「何処へ行くの・・・? よ・・よしにいちゃんっ!!」期待を外した幸絵の声は少年刑務所の冷たい壁を響かせた