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義春の幸せ

義春にとっての
この10年間

いや父を
亡くした日から思えば
更なる年月を
歯を軋ませ
悔しさに甘んじてきた

それでも
彼の慕う母が逢いに
来てくれていた頃はまだ良かった

世間に顔向けの
出来ぬ息子に
変わらぬ笑顔で接してくれた母

日に日にやつれていく姿に
心を痛めながらも
この母のために
更生を誓っていた

しかし
その母の突然の訃報が
もたされたのは
収監されて僅か3年を過ぎたばかりの
冬のことだった

”か・・かあちゃあァァァんっ!
 あぐおぉおぉぉっ””

薄い布団に
潜り込み

”ゆ・・・
 幸絵と
 あの親父のせいだ!”

枕に慙愧と悔恨
そして溢れる怨嗟を
叫び続けた

そう
母の無念を
幸絵らの所為にしなければ
彼は精神を保つことが出来なかった

そして
5年が過ぎた頃、
恨むことにも疲れ果て
誰も彼を訪ねてこない寂しさにも慣れた

その頃だった
突然の面会訪問

突然
幸絵の面会希望を
聞いたのだった

”なっ・・
 何を今更っ・・・”

社会復帰まであと1年

やっと忘れようとしていた
辛い記憶を
再び呼び戻されたことに
彼は憤り
当然のごとく面会を拒絶したのだ

”も・・・もう思い出したくないっ・・!”

しかし
それから一年の間
幸絵は
諦めることなく
毎週のように訪れ続けてきた

”お・・俺に
 そ・・・
 そんなに逢いたいのか・・・?”

10年前

”幸絵にとっても
 思い出したくはない過去のはずだ・・・”

幸絵の気持ちを
測りかねた

そして
ちょうど
ひと月前だった

またしても義春のもとに
意表を衝く
出来ごとが持たされた

それは彼女の印が捺された
婚姻届だった

幸絵からの婚姻届

女性に好意を持てば
距離を置かれ
近寄れば吃音症が酷くなり
更に距離を置かれた

その鬱憤のために
魔が差し
今の自分がある

学歴もなく
人を殺めた自分が
これから社会に戻る

当然
幸せな結婚生活など
望めるはずもない

暗い闇が社会に出ても
続くことを
義春は覚悟していた

故に俄に
信じがたいことだった

しかし
彼を驚かせたのは
それだけではなかった

義春の驚き

「お疲れ様・・・よしにいちゃん」

想像していた以上に
彼女は魅力的な女性となっていた

それも
義春が課した
露出的な姿に身を震わせ
母に負けぬ
優しげな笑顔を差し向けて

嬉しかった
健気なその姿に母を思い浮かべ
申し訳なさすら感じ始めていた

その時彼は
婚姻届を受け取った夜から
抱き始めた密かな希みを
更に深めていた

「か・・母ちゃん・・
 お・・俺・・
 ゆ・・幸絵とだったら
 や・・やり直せるかも知れない・・・。」

疑うことなくその時
彼は幸絵への愛情を取り戻し

昔なくした父母との
ささやかな幸せを築き上げていくことを
夢見ていた

何処へ行くの・・・?

半年前のあの日

久々の再会に
涙を
浮かべた
幸絵に尻目もくれず

すたすたと
門に向かい歩みすぎていく義春

「・・・え・・?」

感動の
再会とまで言わなくとも
彼とやっと
言葉を交わせることを
幸絵は思っていた

その為に
まだ寒いこの季節に
そぐわぬ姿で迎えに来たのだ

「あっ・・・あの、
 よ・・よしにいちゃん・・・?」

何処へ行くの・・・?

「何処へ行くの・・・?
 よ・・よしにいちゃんっ!!」

期待を外した
幸絵の声は
少年刑務所の冷たい壁を響かせた

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ふぃがろ

Author:ふぃがろ
ふぃがろです。
よろしくお願いします。

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