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変れない私が目指すべきは・・・


奪われた幸せ・・・
そして何も知らず拙い感傷で
 よし兄ちゃんを追って
  事件を引き起こさせてしまったのも私です
追わなければ・・・
事件の後に
 よし兄ちゃんを十分に庇うことを
  しなかったのも私・・・

お二人を傷つけ
 不幸に陥れたこと 
  赦されるものではありません
  
だから・・・  
お義母様への誓い
”お義母様に代わって
 必ず私がよし兄ちゃんを
  お迎えします・・・”

そう誓いながらも
 心の弱い私は揺らぐのです

父を待つだけに
 冷たい土の中に佇み続ける
  お義母様のお世話をさせて頂くことを志願したのは
   そのせめての罪滅ぼしと
    自らの弱さへの戒めのためでした

あの日・・・
私のせいで・・・
「私のせいで
  こんな・・・
   こんなことに・・・
 ごめんなさい・・・
  せめて・・・
   せめて私がおばさまの・・・。」

お義母様の献身は
 決して人並みの覚悟では
  出来ない行為でした

そう・・・変れないのは・・・


私のこと・・・
”間島さん・・・
 私のことまだ・・・?”  

凍てつく風に
 晒され悴んだ唇に
  あの日の・・・
   優しくて暖かだった衝撃が
    鮮やかに蘇ります

ああ・・・
 東京に・・・
帰りたい・・・
”東京に帰りたい・・・。”

軋むほどに
 抱きしめられた
  背中の痛みが
   焦がれるほどに懐かしく

寄る辺ない
 私をもう一度・・・
  もう一度その腕できつく
   きつく繋ぎ止めて・・・
繋ぎ止めて・・・
此処へきて
 まだ僅かな日々
  それなのに・・・

間島さんの想いを
 拒んだことを
  酷く悔やんでいるのです

”ああ・・・
 私はなんて・・・”

拒まれた間島さんの
 気持ちも考えもしないで
  今はまた
   自分の寂しさを
    紛らわせるために
     無いものねだりに恋しがる

”よし兄ちゃんに一生
 連れ添うことを誓ったはずなのに・・・”

人を傷つけて今また揺らぐ
 自らの愚かしさに
  嫌悪すら覚えました
   それに比べ・・・
 お義母様・・・
”お義母様・・・”

事件の被害者の
 遺族の方々への贖罪を
  一身に背負われたお義母様

けれども
 お義母様とよし兄ちゃんから幸福を
  経営が行き詰っていた父が奪ってしまったのは
   私にそれを与えたいがためでした

変えたくて・・・でも


知られたくはないこと・・・
よし兄ちゃんの
 刑期の満了を迎えるまでも
  それほどの猶予もありません

けれども通い詰めた
 その肝心のよし兄ちゃんとの
  面会も未だ一度も適わず

幾多のお手紙も
 全て一方通行・・・
  満を持して送った
   将来への想いも
よし兄ちゃんからのお返事・・・
初めての
 返信の期待と共に
  破り返されてもいました
  破られた希望・・
焦燥に駆られる日々
 虚しさ溢れる胸に
  いつも去来するのは
   先日の父に言われた言葉でした
勝手にしやがれ・・・
”望まれていない・・・”

本当は私自身
 それに気付いていて
  でも・・・それを
   それを認めることが怖くて
    今に臨んでいました

けれども・・・
 人の心の機微に疎い私は
  深い思慮や思いやりに欠け
   意図せずして人を傷つけ
    そして不幸にしています

よし兄ちゃんに
 嫌われても致し方のない自分の性分に
  振り払いたくも
   振り払いきれない絶望を
    思い浮かべてしまいます

あて途のない
 再就職活動の
  帰り道に覗えるのは
日本海の波濤
冬の日本海の荒々しい波濤・・・
 それは
  濡れた岸壁に打ち寄せて
   打ち寄せてはまた
    深い灰色に戻りゆきます

滅入る気持ちの先に
 絶え間なく
  繰り返される
   それはまるで・・・

まるで
 何処にも誰にも
  寄る辺ない
   今の私そのものです

ああ
 私は・・・私は・・・
どうしたらいいの・・・?
”どうしたらいいの・・・?

やるせなさが昂じて
 決してもたげてはならない
  想いをまた熾します

もし・・・
 このまま・・・
このままよし兄ちゃんと暮らせないのなら・・・
”このまま
 よし兄ちゃんと
  暮らせないのなら・・・”
間島さん・・・
”間島さん・・・”

寂しさに
 この頃しきりに
  想い浮かべてしまうのです

でも・・変えたくて・・・

以前の職場で
 取り組んでいた
  企画開発のお仕事に就くこと

それが
 この知久土町で難しいことは
  私なりに覚悟もしていました

けれども・・・
こんなに苦労するなんて
”他のお仕事に
 就くことさえも
  こんなに難しいだなんて・・・”

知久土町は
 日本海に面した
  小さな港町です

良質な炭鉱の
 最寄り港として
  殷賑を極めた繁華街も

昭和の終り頃には    
 廃坑と共に寂れゆき
  過疎化の街路に
   行き交う人も今は疎らです
街行く人もいない
だから
 きっと

若い私はこの町に
 歓迎されるものとの
  思い込みもありました

けれども
 転居ほどなくして
  それがとても
   甘い考えであったことに
    気付かされたのでした

東京での経験を頼りに
 求人を探ってはみたのですが
  商社や会計事務所が殆どなく
   駆け込みで入り

私、経理のお仕事得意なんです・・・。
「経理得意なんですっ!
  財務の経験もあって・・・!」

”読んでいただければ・・・”
 秘かに自負していた
  履歴書にすら
   目を通されることも稀で

いえ目を通して
 頂けてさえも・・・

「いらねー・・
  いらねーよっ、
   うちにはっ!!」
 
先々で(雇用は)足りていると
 頑なに拒まれました

人影も寂しいこの町に
 終の棲家を求めたのは
二人の家
出所した
 よし兄ちゃんが
  静かに暮らせる町であるためです

けれども
 人も少なければ
  職も限られるこの町が
   生活の糧を得るには仇となっていました

幸絵010『クリスマスの哀願ストアにてⅡ』

え・・これを着るんですか?

「え・・・
 これを着るんですか・・・?」

赤いコスチュームを手に取り、
それを手渡した人物を見つめ返した。

二代目店長

 

頼みの主は哀玩ストア店長、
室山武弘42歳。

彼に連れ従い、
幸絵は倉庫横の会議室に案内されていた。

室山武弘は
哀玩ストアの現会長である室山平八の長男であり、
そのやり手の先代店長跡を継いで店長2年目となる。

東京にいた頃に知り合った妻と、
高校生の娘と
小学生の息子を持つ。

古参の店員からは
二代目は頼りないと揶揄されてはいるが
幸絵は
どことなく彼を憎めないでいた。

半年前の面接の際に
知久土町に生まれ、
大学から東京に移り住み、
そのまま就職していた経歴を聞かされている。

平八の事業拡張のサポートの為に、
二年前、知久土町に戻ってきていた。
東京の営業マンだったことも有り、
能弁で切れ者を思わせる。

けれども口ばかりで、
実行力は平八の足元にも及ばない、
帰郷の理由も
リストラであったことを確かな筋からの情報と
店員たちは噂していた。

幸絵を頼る今回の理由も
それを裏付けるような案件だった。

「ごめん・・・、
 当日販売のケーキの発注数量を間違えちゃって・・・。」

「え・・・これ、
 注文予約のケーキじゃないんですか?」

そこには100個以上も山積みにされた
クリスマスケーキの箱が並んでいた。
本来数個あれば良い
当日売りの高級ケーキを発注ミスをしたのだという。

「何かの間違いだと問い合わせたんだけど・・・。」

山となったケーキの箱を見て
業者に問い合わせたのだが伝票を突き付けられ、
間違いはないと言い切られ、
全て、売れ残れば50万円以上の損失になるという。

「ゆ・・幸ちゃん、
 何とか手伝ってくれないか・・・?」

額に浮かんだ汗を
何度もハンカチで拭いながら
室山武弘は幸絵に助けを求めた。

会長や店長に気づかれぬように
業者と共にこの会議室に運び込んできていた。

「う~ん・・・困った。
 お願いだ・・・
 幸ちゃん・・・
 手伝ってくれないか・・・?」

その顔は気の毒なまでに
うろたえていた。


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