2010/02/23 寂しい葬儀 それは将来を語り飲み明かした幸絵の父幸雄と共に終電を待つ駅のホームでのことでした。泥酔した進は足を踏み外し通過する貨物列車に轢かれてしまったのです。すぐ様、近隣の病院に担ぎ込まれたのですが、義春を伴い智子が駆け着けた時には既に事切れていたのです。「お・・・俺がついていながらっ!」幸雄の嗚咽が病院の廊下に響きました。「あ・・あなたぁっ! あ・・あぁぁっ・・・!」「と・・とうちゃぁぁん!」智子と義春も進の亡骸に縋りつき泣き崩れたのです。しかし智子が取り乱したのはこの時だけでした。駆け落ちをしてきた智子たちです。頼るべき親戚もありません。10年以上も音沙汰の無かった二人に参列どころか電話の一本も無かったのです。智子は僅かな蓄えで気丈に喪主として葬儀を挙げました。葬儀に参列したのは幸絵ら家族と中村工業の若い従業員二人、そしてアパートの住人達数人だけと寂しいものでした。それでも毅然とした態度を崩さぬ喪服姿の智子の美しさは幸絵にもそして義春の目にも焼き付けられました。そして進の四十九日も過ぎた頃申請した新しい電気部品の正式特許が下りたのでした。
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