2010/02/22 二人の父 幸絵の思い返した忌まわしい過去それには二人の父について物語らなければなりません。 義春の父、坂井進は先述したように智子と二人で駆け落ちして神崎県にやってきました。「中村先輩・・・、 いえっ・・・社長、 今度こそ自信があります。 成功しますよっ、 絶対、絶対です。」「そうだなっ! あれなら絶対行けるな・・・!」「特許申請も済ませたし・・・。」「うむ、大丈夫だ・・・ 明日には返事も来るだろうっ!」「や・・やったぁ・・・、 これで智子に・・・ 義春に美味いもの食べさせられる!」「悪かったな・・・ 安月給で働かせて・・・!」「そ・・ そんなことないっす、 しゃ・・社長にはほんと感謝してますっ!」「あはは、 うそだよっ! まあ確かに生活苦しかったよな・・・。 俺んちもそうだったから・・ でも、 それも終わりそうだな・・・。」若くして駆け落ちした進は神崎県の工業地帯にある小さな電気部品工場にアルバイトとしてやっとの思いで雇って貰いました。その工場に幸雄がいたのです。高卒で就職した彼も23歳、そろそろ中堅社員になりつつあった頃のことでした。智子と生まれたばかりの義春のため進はまじめに働きました。そんな進を幸雄はとても可愛がっていました。転機がきたのはそれから10年も過ぎた頃のことでした。幸雄は密かに退社し電気部品工場の会社を興そうと思っていたのです。「来るか・・・進?」手先が器用で電子機器の勉強も熱心にし始めていた進の力は工場でも重宝がられていました。しかし経営者は気の弱い進が何も言わないことをいいことに10年経ってもバイト扱いのままにしていたのです。会社の姿勢にも辟易としていたの事実ですが、慕っている幸雄に進はついていく事しました。「でも社長、 あれからもう2年・・、 あっという間でしたね。」「ああ、 そうだな・・早かったな・・・ 進・・でもこれからだぞっ! 幸せが待っているのは!」「はいっ!」「もう一件、行こうっ!」「はいっ、 どこまでも 社長についていきますっ!」愛する智子と義春の喜ぶ顔が目に浮かびました。"待ってろよ、 智子、義春・・・。”苦労を掛けた二人にやっと人並み以上の生活を送らせる事が出来る。進は幸福の絶頂に有りました。けれどどこに不幸は待っているか判りません。その夜の帰り道、坂井進は帰らぬ人となったのです。
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