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『幸せな悩み』

『幸せな悩み』

正直な所、
義春は今日幸絵を哀玩ストアに尋ねても
金を貰うことが出来ないと思っていたのです。

給料の大半を義春の遊興費に費やし、
僅かに残ったお金で生活をやりくりしている
幸絵です。

たった3日前に
その切り詰めた生活費さえも奪い去り
ギャンブルで使い果たしてしまったのは
当の義春です。

幸絵の取り成しをいいことに
哀玩ストアで暴れ
何をしても
自分に尽くし続ける幸絵を
殴る蹴るして鬱憤晴らしを
するつもりだったのです。

思わぬ副収入は
義春の口元を綻ばせていました。

「あ・・・あの・・・。
 幸絵・・幸絵加虐生殺自在主様・・・。」

義春の機嫌が戻ったことを感じ取ると
幸絵は恐る恐る声を掛けました。

彼女の言う
”幸絵加虐生殺自在主・・”とは
彼女自身が義春を呼称する際に
我が身の所有、存在が
彼にあることを顕すために
考え出した名前です。

彼女は二人でいる時
必ずこの呼び方で
義春を拝しているのです。

「ん・・・何だ・・・?」

心なしか
義春の声が明るく聞こえます。

「あの今日・・、
 棚卸しであと15分くらいで
 私、帰れそうなんです・・・。」

「ああん・・・?」

既に足がパチンコ屋に
向こうとしていた義春は
眉間に皺を寄せて振り返りました。

「あの・・
 すぐにお食事の支度をしますっ・・・。
 お食事の後・・・
 どんなご奉仕も
 させていただきます・・・。」

幸絵は再び土下座の姿勢を取り
アスファルトに額をぶつけながら訴えました。

「お・・・俺に
 俺に・・・ま・・待てだとっ・・・!?」

義春の語気に怒りが混じってきたのを
幸絵は感じました。

「あ・・ああ・・
 どんな・・どんな罰でも受けます。
 だから・・どうぞ・・ご一緒に・・・。」

幸絵は滅多に義春に対し
こんなお願いはしません。

幸絵らしくない
このお願い行為は
義春の身を思ってのことです。

義春は昨夜帰宅していません。
お金を持たせると
家に立ち寄ってくれなくなるのです。

”お食事・・・
 お食べになってらっしゃるかな・・・?”

先月もギャンブルに持ち金を使い果たし
その店の冷蔵庫を漁り
危うく警察沙汰に
成り掛けたこともある義春です。

呼び出しに応じ
ここでも平身低頭の幸絵の謝罪と
弁償で事なきを何とか得たのです。

重い罪の前科のある義春です。
警察の厄介になることは
何としてでも
避けなければなりません。

しかし何より
自分の命より大事な義春に
飢えを感じさせたくない幸絵なのです。

「あん・・め・・飯・・か・・?」

本当はこのままその足で
パチンコに向かおうと思っていた義春でしたが
少し思案したのでした。

”ま・・・待てよ・・・。”

義春は
もう一度封筒の中身を確認すると、
ちょっと間を置き返事をしました。

「は・・・
 はや・・早く・・こ・・来いよっ!
 じゅ・・10分だからなっ!」

「は・・はいっ・・・、
 ありがとうございます。」

土下座の幸絵は
その姿勢のまま
歓喜の声を上げて返事をしました。

「あの・・
 きっと・・きっとお待ち下さいね・・・。」

顔を少しだけ持ち上げ
義春を見上げて
幸絵は哀願しました。 

「わ・・わか
 わかった・・から・・・
 は・・早く行けっ!」

副収入といっても5千円のみ・・・

義春は食事代を浮かして
少しでもパチンコに
つぎ込む算段をしたのです。

「はぁ・・はぁ・・・
 お・・・
 お待たせしました・・・。」

ちょうど10分後、
分厚い脂肪に覆われた
熱がりの義春ならいざ知らず、
12月の空には肌寒い
着たきりの薄手のブラウスに着替えた幸絵が出てきました。

傍らには
彼女の唯一の財産とも言える
ママチャリを携えていました。

貰った余りものの野菜や
タイムサービス終了直前の格安食肉を
自転車の籠に詰め込んできています。

幸絵が気を病んでいた
義春がリンゴを叩きつけて汚した床は
既に拭かれていました。

「あ・・・
 ありがとうございます。
 あの、すみません、私・・・。」

「いいよ、いいよ、早くいきなっ、待ってるんだろ?」

「はいっ・・・ごめんなさい・・
 このお詫びはまた・・。」

日頃の行いなのでしょう・・・

侘びながら
明るく笑顔を向ける幸絵に
店員達は誰も文句を
言いませんでした。

「申し訳ありません・・・、
 お待たせしました・・・。」

「ふんっ!」

幸絵の挨拶もそのままに
義春は背を向けて歩き始めました。

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「あの・・・
 今日はビーフシチューと・・・
 幸絵加虐生殺自在主様のお好きなハンバーグです。」

聞いているかどうかも判らない
自分の前を行く義春に今日のメニューを
嬉しそうに語る幸絵です。

揺れる大きな背中を見つめながら
別に用意するつもりの
サラダをどうやったら食べて貰えるのか
幸せな悩みに少しだけ心悩ますのでした。

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