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捧ぐ歓び

『捧ぐ歓び』

幸絵が義春の強引な力で引き摺られてきたのは
哀玩ストア裏の業者用車両の駐車場でした。

「きゃっ・・・!」

義春がこともなげに
腕を振ると
幸絵の身体は駐車場に投げ出されました。

「お・・おらっ・・
 だ・・出せよっ・・か・・か・・金・・!」

義春は吃音症(どもり)の傾向があります。
緊張や興奮をすると
更にそれは激しくなります。

彼に人との会話を
苦手とさせてきたそれは
彼と幸絵の人生に
少なからずの影響を
与えてきていました。

「はっ・・
 はい・・
 す・・少し
 お待ち下さい・・・。」

駐車場に投げ出された身体を
即座に起こし
粗いアスファルトの凹凸が
ストッキングを穿かない
幸絵の白い両脛に食い込みました。

義春の足元で
正座をしたのです。

年若いスーパーの女子店員が
既に冬を間近に迎えようとしている
駐車場で正座をしている姿は
人が見れば異様な物にしか見えません。

けれど
幸絵の表情にその悲哀は
見受けられません。

その答えは
彼女のポケットに有りました。

「こ・・・これ、
 どうぞお使いくださいませ・・・。」

幸絵はニコニコと
微笑みを溢しながら
ポケットから取り出した
封筒を義春に差し出しました。

バッ・・・

義春は嬉しそうに話す
幸絵の言葉尻を聞く前に
荒々しく封筒を奪い取り、
封を切りました。

ビリリ・・・ッ

中を確かめるなり義春は
正座していた幸絵の身体を蹴飛ばしました。

ドカッ!

「きゃっ!」

130kgの巨体から
繰り出されるその蹴撃はクレーン車の鉄球にも似た
衝撃を以て華奢な幸絵を吹き飛ばします。

短く悲鳴を上げた幸絵の身体は
1m近くも後ろの駐車場の地面に
したたかに打ち付けられました。

ドカッ!
ドカッ!
ドカッ!

義春は怒りの形相を浮かべ
アスファルトにひれ伏す幸絵に
凶器ともいえる体重を掛けた
蹴撃を浴びせかけました。

「あうっ!あぁっ!
 も・・・
 申し訳ありませんっ!
 申し訳ありませんっ!
 あうっ・・・!
 お・・お許し下さいっ
 お許し下さいませっ・・・!」

何が義春をそうさせたかは
幸絵にもわかりませんが
ただひたすら謝り続ける幸絵です。

ドカッ!
ドカッ!
ドカッ!

「ううっ・・
 ごめんなさいっ・・・
 申し訳ありません・・・
 ど・・どうぞ・・
 お許し下さい・・・。」

「はぁっ・・はぁ・・はぁっ!」

義春の加虐が収まりました。

ただそれは
幸絵の謝罪の言葉が通じたのではなく
義春自身が自分でも持て余す
大きな身体を動かし続けるのに
息が切れただけのことです。

しかし幸絵は
そのようなことを推考する
心理を持ち合わせていません。

ただ蹴撃が中断したのを感じとると
蹴りを加えられた痛みをものともせず
アスファルトに投げ出された身を起こし
土下座の姿勢を取りました。

「も・・
 申し訳ございません。
 申し訳ありませんでした。
 どうぞ・・・どうぞ
 ご存分に
 変態マゾ豚幸絵をお責め下さい・・。」

その可憐な幸絵の相貌から
窺い知ることの出来ない台詞が
二人だけの駐車場に響きました。

幸絵にとって
損ねてしまった義春の機嫌を
取り成すことで思考がいっぱいなのです。

「か・・顔・・・
 顔・・あ・・あげろっ!」

「・・・はいっ・・・!」

震えながら幸絵は
顔を上げました。

ガツッ・・!

するといきなり
顔に衝撃が走りました。

義春が幸絵の顔に
体重を掛けた靴底を乗せ掛けてきたのです。

yukie 003


「あぅ・・・っ」

幸絵は膝を崩しつつも
体重が掛けられた義春の靴裏を
その愛くるしい顔で支え続けます。

「よ・・よく・・・
 も・・
 持って・・
 持ってたな・・・?
 か・・
 か・・金は・・
 ぜ・・・
 全部渡すって・・・
 い・・
 言ってた・・・
 言ってたじゃないかっ・・・!?」」

義春は息も絶え絶えに
靴の下の幸絵に問い質しました。

「あ・・はい・・
 申し訳ありません・・・。
 
 そ・・そのお金は
 あの・・先日、
 改善案をお店に出したら・・
 改善賞を頂けたんです。

 その賞金なんです・・・。
 今日、さっき頂いたんです・・・。」

幸絵は
不安定な義春の姿勢を崩さないように
顔に掛かる靴裏の感触を気遣いながら
説明しました。

「ほ・・ほ・・・
 本当か・・・?
 ま・・・まだ・・・
 隠してるんじゃ・・・
 な・・ないのかっ?」

「そ・・それで・・
 全部です・・・、
 あの・・・
 封筒を御覧下さい・・
 封を開いてません・・・
 ね・・・・。」

確かに改善賞と書かれた封筒は
義春が開いた以外に切り口は無く、
裏には金五千円と書かれており
中身はその額面通りのものでした。

幸絵は
店長からその臨時収入を手渡されながら
義春の喜ぶ顔を思い浮かべていました。

今晩、その臨時収入を毎月の月給同様に
義春に渡そうと思っていたのです。

「ふん・・・・・。」

義春は足を降ろし
その封筒から現金だけ取り出し
ズボンのポケットに捩じ込みました。

”よかった・・・。”

幸絵は義春の機嫌が治ったことに
胸を撫で下ろし
投げ捨てられ
ごみと化した封筒をそっと
自分のポケットにしまいこんだのでした。

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