2013/12/24 幸絵010『クリスマスの哀願ストアにてⅡ』 「え・・・ これを着るんですか・・・?」赤いコスチュームを手に取り、それを手渡した人物を見つめ返した。 頼みの主は哀玩ストア店長、室山武弘42歳。彼に連れ従い、幸絵は倉庫横の会議室に案内されていた。室山武弘は哀玩ストアの現会長である室山平八の長男であり、そのやり手の先代店長跡を継いで店長2年目となる。東京にいた頃に知り合った妻と、高校生の娘と小学生の息子を持つ。古参の店員からは二代目は頼りないと揶揄されてはいるが幸絵はどことなく彼を憎めないでいた。半年前の面接の際に知久土町に生まれ、大学から東京に移り住み、そのまま就職していた経歴を聞かされている。平八の事業拡張のサポートの為に、二年前、知久土町に戻ってきていた。東京の営業マンだったことも有り、能弁で切れ者を思わせる。けれども口ばかりで、実行力は平八の足元にも及ばない、帰郷の理由もリストラであったことを確かな筋からの情報と店員たちは噂していた。幸絵を頼る今回の理由もそれを裏付けるような案件だった。「ごめん・・・、 当日販売のケーキの発注数量を間違えちゃって・・・。」「え・・・これ、 注文予約のケーキじゃないんですか?」そこには100個以上も山積みにされたクリスマスケーキの箱が並んでいた。本来数個あれば良い当日売りの高級ケーキを発注ミスをしたのだという。「何かの間違いだと問い合わせたんだけど・・・。」山となったケーキの箱を見て業者に問い合わせたのだが伝票を突き付けられ、間違いはないと言い切られ、全て、売れ残れば50万円以上の損失になるという。「ゆ・・幸ちゃん、 何とか手伝ってくれないか・・・?」額に浮かんだ汗を何度もハンカチで拭いながら室山武弘は幸絵に助けを求めた。会長や店長に気づかれぬように業者と共にこの会議室に運び込んできていた。「う~ん・・・困った。 お願いだ・・・ 幸ちゃん・・・ 手伝ってくれないか・・・?」その顔は気の毒なまでにうろたえていた。
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