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肉体改造奴隷SlaveButterfly#14『解脱』

『解脱』

真の暗闇の中に封じ込められた私。

既に与えられてきた食事の回数も
記憶に残っていません。

光の全く無い狭いゲージの中で
何度も解放を願い
入り口のドアを蹴ることもなくなりました。

何時間かおきに食事が与えられ
自らの排泄物の匂いも
今は気にならなくなってしまっています。

だからといって
それ以外
全くの無の空間になったわけでは
有りません

時折ドアの向こうから
声が響いてくるのです・・・

”真のマゾになれ・・・
 お前の存在価値はそこにある・・・。”

「なにそれっ!
 わからない・・・出してっ
 出してよっ!」

思いもかけず
長い時間をこの空間で過ごすことを悟った時
私はその声に逆らい叫んでいました

時が経つにつれ
その声に対しても
私は無反応になりました

けれども
外界からの刺激がそれだけになった
私の思考は
私の意志とは無関係に
だんだんと
その言葉だけに
埋め尽くされていきました

”わ・・私、
 せ・・洗脳されていく・・・
 怖い・・・・怖いっ!”

自分が自分で無くなる
恐怖を感じました・・・

「わ・・私っ・・・負けないからっ!
 そんな思惑に屈するわけないじゃないっ・・・!」

「ね・・お・・・お願い・・・
 何でもします・・・だ・・出してください・・・。
 お願いします・・・!」

「あははははは・・・
 きゃははは・・・・
 うふふっふ・・・きゃははは・・・!」

「あ・・ありがとうございます・・・。
 ご主人様・・・このままずっとここにおります。」

「うあぁぁぁうえぇぇん・・・・!」

「あんた馬鹿じゃない・・・
 こんなことでしか女を相手に出来ないんだ・・・・。」

「ぎゃぁあっぁぁあぁっっ・・・・!」

何秒、何分、何時間・・・叫んだことでしょう
何日・・・何週間・・・何ヶ月・・・
いろんなことを暗闇の中から外に語りかけ
叫んでいたか判りません・・・

けれど返ってくるのは
いつもの言葉だけ・・・

記憶を失っていることなど
既にそれすらも忘れていました

いつしか
また私はその言葉を聴いても
声を発することはなくなっていました・・・

自ら精神の崩壊を
望みもしましたが出来ませんでした・・・

真のマゾ・・・
それが存在価値・・・

私はいつしか
以前のように拒むことなく
その言葉を考えるようになっていました・・・

”真のマゾになれ・・・
 お前の存在価値はそこにある・・・。”

小さな空間で
動きを封じられ
漆黒の闇の中
息をして
食事をし
排泄しているだけの私

”ここにこうしていることが
 私の存在価値・・・?”

自らの精神を崩壊させてしまうことが
出来ない私の心がとった
詭弁だったかもしれません

けれど
唯じっとしていることの価値・・・

私はいつしか
シジフォスの岩を
心に想い描いていました・・・

”真のマゾになれ・・・
 お前の存在価値はそこにある・・・。”

「・・・はい、その通りです・・・。
 ・・・ありがとうございます。」

私自身、驚くほど
心が落ち着いた状態で
返事が出来るようになっていました。

それから
またどれくらい時間が経ったのでしょう
私の心は乱れてはいませんでした

ここにこうしていることが
受虐出来る価値として自分に見出せていたからです

”真のマゾになれ・・・
 お前の存在価値はそこにある・・・。”

「・・・はい、その通りです・・・。
 ・・・ありがとうございます。」

この言葉のやり取りが何回行われたか
それもまた
判らなくなってきていたある日
変化が訪れました

ガチャ・・・・
カチャカチャ・・・・
キィィィ・・・・

”え・・・っ!?”

壁だと思っていた
頭側の壁が音を立てて開いていきました

眩しい光が流れて込んできて
私は思わず目を覆いました。

「だいじょうぶか・・・?
 瞼は閉じていたほうがいい・・・。」

「は・・・はい・・・。」

何が起きたか私は判りませんでした。
もうこの壁の檻の中で
一生を過ごしてもいいと
考えていました。

「ゆっくり出て来い・・・、
 ゆっくりな・・・。」

「・・はい・・・。」

私は目を閉じたまま
ゆっくりと外に出ようとしました・・・

「・・・・!
 うぅぅっ・・・・」

身体中の関節と筋が悲鳴をあげました。
余りにも長い間
伸ばすことなく固定されていたからです

「ほらっ・・・ゆっくりとだ・・・。」

「・・うぅ・・はいっ・・・」

私はやっとの思いで
庭に這い出しました
そうして瞼の向こうの光も
落ち着いてきていたことを感じていました

「あの・・・
 目を開けていいですか・・・?」

「あ・・ああ・・
 新月の夜を選んだんだけどな・・・。」

ゆっくりと
瞼を開いていきました。

「そうだ・・・
 身体洗い流さなきゃな・・・・。」

ご主人様はそう言われて
走り去られていく足音を響かせました

「あ・・・
 あ・・待って・・・
 待ってください・・・・・。」

butter100425


あぁぁ・・・

思わず足音の先を見ると
そこには家に面した湖が広がっていました

満天の星が
そして遥か向こうの街の灯が
光から遠のいていた私の瞳を震わせました

春の終わりを思わせる靄が
私の汚れた身体を包んでいました

あ・・
どこ・・・
どこですか・・・

既に消えた記憶の向こうにいた男性は
今私の大切な人となっています

瞬く淡い光は
私の瞳を震わせます

擦る瞼に涙が溢れて止まりませんでした
どこにいるの・・・

身体中の筋を軋ませながら
精一杯に身体を起こしあげ
霞む視界の先を追いました

記憶の柵(しがらみ)から
解脱したと思われた私の心はいま
愛しき後姿を追い続けていました














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